アルコールチェック記録簿は、運転者の飲酒の有無を確認し、その結果を詳細に記録するための書類です。これは、交通安全を確保し、飲酒運転による事故を防ぐために極めて重要な役割を果たします。2022年4月1日に施行された改正道路交通法では、白ナンバー車両を使用する事業者にもアルコールチェックの実施と記録保存が義務付けられました。この法改正の背景には、飲酒運転による重大な事故防止があり、特に2021年6月に発生した千葉県八街市での悲惨な事故が大きな転機となりました。アルコールチェック記録簿は、こうした規制を遵守し、事業者の法的責任を果たすために欠かせない書類です。
アルコールチェック記録簿には、具体的で正確な情報を記載することが求められます。記録内容が不十分だった場合、監査や事故の際に問題視される可能性があるため、以下の項目を網羅する必要があります。
まず、チェックを実施した安全運転管理者やその補助者の氏名を記載します。これにより、確認業務の責任の所在が明確になります。次に、アルコールチェックを受ける運転者の氏名を正確に記載してください。運転者が使用する車両についても、その登録番号や識別できる情報を明記する必要があります。
記録には、アルコールチェックを実施した日時を正確に記録し、確認の方法についても詳細に記載します。例えば、対面でのチェックか、アルコール検知器を用いたものか、非対面で行った場合にはどのように確認したか(電話やカメラ使用など)を具体的に記す必要があります。重要な項目として、酒気帯びの有無を明確に記録します。もし酒気帯びが確認された場合には、具体的な指示内容や対応措置を追記することが求められます。
業務で車両を使用する企業や団体にとって、アルコールチェックの実施とその記録管理は重要な義務です。特に、記録簿の保存期間や様式に関するルールを正しく理解し、適切に管理することが求められます。
業務使用の自家用自動車における飲酒運転防止対策を強化するため、令和3年の道路交通法施行規則の改正により、以下の規定が設けられました。
これらの改正により、企業の安全運転管理体制の強化が求められています。
アルコールチェックの記録簿には、1年間の保存義務があります。これは、道路交通法施行規則の改正により、安全運転管理者が運転者の酒気帯びの有無を確認し、その内容を記録することが義務付けられたためです。
記録簿の保存方法や書式に厳格なルールはありませんが、以下の8つの項目が漏れなく記載されていることが重要です。
国土交通省や千葉県安全運転管理協会が提供する無料の記録簿テンプレートを活用すると、必要な情報を網羅できるため便利です。書式はPDFやExcelなどがあり、企業の管理方法に応じて選択できます。
この保管義務は単なる法令遵守だけでなく、事故防止と安全運転管理において重要な役割を果たします。適切な記録と保管は、飲酒運転防止に向けた組織全体の取り組みの一環として位置付けられています。
アルコールチェックおよび記録簿の適切な管理を怠ると、安全運転管理者の業務違反とみなされます。現時点で記録簿の未保存に対する直接的な罰則は設けられていませんが、公安委員会による安全運転管理者の解任や命令違反に対する罰則が科される可能性があります。
さらに、令和4年の道路交通法改正により、安全運転管理者の選任義務違反に対する罰則が、従来の5万円以下の罰金から50万円以下の罰金に引き上げられました。
企業としては、法令を遵守しアルコールチェックの記録を正しく管理することが求められます。適切な管理を行い、安全運転を徹底することで、業務の安全性を高めることができるでしょう。
アルコールチェック記録簿は、紙媒体または電子データの形式で保存できます。それぞれに利点と課題があります。紙媒体の場合、記録を印刷して手書きで記載するため初期コストは低くなりますが、長期的には保管スペースの確保や紙の劣化が課題となります。一方で、電子データ形式では、クラウドサービスや専用の管理システムを活用して記録を保存・管理することが可能です。電子形式の利点は、遠隔地からでも記録を確認・更新できる点にあります。また、検索機能やデータの集計機能を活用することで、業務効率が向上します。
事業者によっては、直行直帰の運転者や遠隔地で業務を行う運転者がいる場合があります。そのようなケースでは、非対面でのアルコールチェックが必要です。スマートフォンやウェアラブルカメラを使用し、リアルタイムでアルコール検知器の結果を確認する仕組みが推奨されます。これにより、運転者が物理的に安全運転管理者と接触できない場合でも、確実に酒気帯びの有無を確認することが可能です。
アルコールチェック記録簿の適切な運用には、従業員の理解と協力が不可欠です。アルコールチェックが義務化された背景や、記録簿に記載する各項目の重要性について、定期的に教育を行う必要があります。特に、記録内容が不備だった場合のリスクや、適切な対応が取れなかった場合の法的責任についても周知することが重要です。また、運転者がアルコールチェックの結果を偽らないよう、信頼できる確認体制を整備し、従業員にその意義を納得してもらうことも必要です。
アルコール検知器は、アルコールチェックの精度を左右する重要なデバイスです。定期的なメンテナンスや校正が必要であり、信頼性の高い製品を選定することが不可欠です。安価な製品に頼ると、誤作動や精度不足による問題が発生する可能性があります。加えて、検知器の使用方法についても従業員に対して適切な指導を行うことが求められます。
アルコールチェック記録簿は、事業者の法令遵守を証明するための書類です。定期的に記録簿の内容を確認し、漏れや誤りがないかを点検する内部監査を行うことが推奨されます。これにより、記録内容の信頼性を高めるとともに、万が一の不備を早期に発見し是正することが可能です。
アルコールチェックを進めていく中で、多くの事業所が下記のような課題に直面します。それぞれの対策を同時に講じることで、負担を大きく減らすことができます。
紙の記録簿を使う場合、手書きの文字が読みにくかったり、記入漏れ・ミスが出やすくなります。また、管理者側はファイリングや閲覧のための膨大な紙を抱えがちです。
国土交通省や各都道府県警察などが公開しているアルコールチェック記録簿のモデル様式を参考にすると、法定項目の漏れが防止できます。
また、クラウド上で記録するシステムを導入することで、紙の記入負担がなくなり、集計・検索・保管が容易になります。
忙しい朝や業務の合間に、アルコールチェックそのものを忘れて出発してしまう、あるいは測定したのに記録を忘れてしまう事例が起きやすいです。
スマホやシステムで一定時刻に自動通知を出すように設定すれば、忙しいときでも実施を思い出せます。
「始業ミーティングの際に必ずチェックを行う」など手順も決め、実施と記録をルーティン化しましょう。
アルコールが抜けていない状態の運転者が、別の人に代わりに検査をしてもらう「なりすまし」が発生すると、会社の管理体制も問われます。
検査時に自動で写真を撮影したり、顔認証が行われるシステムを使うと、本人確認が確実になり、なりすましを抑止します。
また、カメラ越しに吹き込みの様子や顔を確認して、検知器測定と運転者が一致しているかも確かめましょう。
法定項目が漏れないようにテンプレートを設定し、全社で同じ書式を使うことで、記入漏れやフォーマットのばらつきを防ぎます。
1日あたり1枚のシートにまとめる方法や、週・月単位で見返しやすいようにバインダー化する方法があります。そうすることで保管スペースを削減し、必要なときにすぐ取り出しやすくなります。
日別・月別など分類をはっきりさせて保管し、ラベルを付けて探しやすくします。1年を過ぎた記録を廃棄するタイミングも決めておき、書類の増加を抑えましょう。
スマートフォンのアプリと連携するタイプのアルコールチェッカーを利用すると、測定結果が自動的にデータ化され、記入の手間やミスが大幅に減ります。
クラウド上で管理することで、どのドライバーがいつ・どこで測定したかが即座に一覧できるようになります。離れた営業所や直行直帰のドライバーでも、同じ仕組みで測定可能です。
顔認証・写真撮影の機能があるサービスを導入すれば、誰がアルコールチェックを実施したかを確実に確認でき、数値の信頼性も高まります。
機器の購入費や月額使用料はかかりますが、管理の効率化や事故リスクの低減、紙運用時の手間を考慮すると、総合的にはコストを抑えられるケースもあります。
アルコールチェック記録簿は、運転者の酒気帯び確認を記録するだけでなく、事業者の安全運行管理体制を示す重要な書類です。法的要件を満たすだけでなく、事故防止や事業者の信頼性向上にも寄与します。適切な記録方法を実施し、従業員教育や管理体制を整えることで、飲酒運転のリスクを抑えることが可能です。飲酒運転を未然に防ぐために、アルコールチェック記録簿の適切な運用を徹底しましょう。